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AI全般10

AI時代に「UX」が勝負を分ける ― BtoB企業が今こそ向き合うべき体験価値の設計

機能はAIで簡単に作れる時代。だからこそ差別化の軸は「体験価値(UX)」に移っています。AI時代になぜUXが重要になるのか、そしてカスタマージャーニー・AS-IS/TO-BE・フィードバックによるUX設計の進め方を、BtoB目線で解説します。

AI時代に「UX」が勝負を分ける ― BtoB企業が今こそ向き合うべき体験価値の設計

1. はじめに:なぜ今「UX」なのか

「うちのシステム、機能は揃ってるのに、なんか使いにくいんだよね」

こんな声を、社内システムや業務アプリケーションについて聞いたことはありませんか?

実は、この「なんか使いにくい」という感覚こそが、UX(ユーザーエクスペリエンス)の問題なんです。

これまで、特にBtoB向けのシステム開発では、UXはあまり重視されてきませんでした。「機能が動けばいい」「業務が回ればいい」という考え方が主流だったからです。

しかし今、生成AIの登場によって、この状況が大きく変わろうとしています。本記事では、AI時代になぜUXが重要になるのか、そしてUXをどのように設計すればよいのかをお話しします。

2. UXとは何か:機能ではなく「体験」を設計する

UXの定義

まず、UXとは何かを整理しておきましょう。

UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス) とは、ユーザーが製品やサービスを利用する際に得られる「体験全体」のことです。

ここで重要なのは、「機能」ではなく「体験」という点です。

例えば、あるWebサイトで商品を購入するとします。「商品を検索する→詳細を確認する→カートに入れる→決済する→届くのを待つ→届いた商品を使う」——これらすべてのプロセスで、ユーザーが感じる感情や印象の総体が「UX」です。

「欲しい商品がすぐ見つかった」「説明が分かりやすかった」「決済がスムーズだった」——こうしたポジティブな体験の積み重ねが、良いUXを生み出します。

UIとUXの違い

よく混同されるのが、UI(User Interface:ユーザーインターフェース) との違いです。

UIは、ユーザーと製品の「接点」のことです。画面のデザイン、ボタンの配置、色使いなど、目に見える要素がUIです。一方、UXは、UIを含む「体験全体」です。

分かりやすく例えると:

  • UI:レストランの内装、テーブルの配置、メニューのデザイン
  • UX:入店から退店まで、食事を楽しむ体験全体(接客、料理の味、雰囲気、会計のスムーズさなど)

UIは「見た目」、UXは「体験」。UIはUXの一部ですが、UXはもっと広い概念です。

BtoBでは「使えればいい」だった

これまで、特にBtoB向けの業務システムでは、UXはあまり重視されてきませんでした。

「社内で使うものだから、多少使いにくくても我慢してもらえばいい」「研修すれば使えるようになる」「機能が動くことが最優先」——こうした考え方が、長く主流だったのです。

その結果、多くの業務システムは「機能は揃っているけど、使いにくい」状態になっています。「なんでもできるけど、やりたいことを実現するのに時間がかかる」ツールを思い浮かべると分かりやすいかもしれません。

3. なぜ今、システム開発でUXが重要になっているのか

では、なぜ今、BtoB領域でもシステム開発においてUXが重要になっているのでしょうか。ここには、生成AIの登場による大きな変化があります。

① UXが「体験価値」を決める時代に

まず、システムの価値基準が変わりつつあります。

これまでは「何ができるか(機能)」が競争軸でした。「他社にはない機能がある」「機能が充実している」ことが、製品の強みだったのです。

しかし今、多くの機能はAIによって簡単に実装できるようになりました(※セキュリティや非機能要件はここでは一旦横に置きます)。「こういう機能を作って」と頼めばベースとなるコードが生成され、コーディングのスピードは格段に上がります。つまり、「機能」では差別化しにくくなっているのです。

では、何で差別化するのか——答えは「体験価値(UX)」です。

同じ機能でも、「使いやすい」「気持ちいい」「迷わない」という体験を提供できるかどうかで、ユーザーの評価は大きく変わります。

② AIで「体験価値の仮説」が立てやすくなった

次に、UXを設計するプロセス自体も変わっています。

従来、UXを考えるには、ユーザーリサーチ、ペルソナ設計、カスタマージャーニー作成など、多くの工程が必要でした。これには時間もコストもかかります。

しかし、生成AIを使えば、体験価値の仮説を素早く立てられるようになりました。例えば、次のように聞いてみます。

製造業の生産管理担当者が、日々の業務で感じている
ストレスや不満を10個挙げてください。

すると、AIが一般的な課題や不満を列挙してくれます。もちろん、これはあくまで「仮説」です。実際のユーザーに確認する必要があります。

しかし、ゼロから考えるのと、たたき台がある状態で検討するのでは、効率が全く違うのです。初期段階でAIを使って仮説を量産し、その中から筋の良いものを選んで検証する。こうしたアプローチが可能になっています。

③ コーディング時間の短縮で「価値」に目を向けられる

3つ目の変化は、開発リソースの使い方です。

従来のシステム開発では、エンジニアの時間の多くが「コーディング」に費やされていました。「仕様を決める→設計する→コードを書く→テストする→バグを直す」——このサイクルに多大な時間がかかっていたため、「そもそもこの機能は本当に必要か?」「ユーザーにとって使いやすいか?」といった本質的な問いに時間を割く余裕がありませんでした。

しかし、AIアシスタントの登場により、コーディングにかかる時間が大幅に短縮されています。その結果、エンジニアは「コードを書く」作業から解放され、「何を作るべきか」「どう作るべきか」という価値の設計に時間を使えるようになりました。

これは、UXにとって大きな追い風です。これまで後回しにされがちだった「使いやすさ」や「体験の質」に、正面から向き合えるようになったのです。

コーディングから解放され、エンジニアが「何を・どう作るか」という体験価値の設計に集中できるコーディングから解放され、エンジニアが「何を・どう作るか」という体験価値の設計に集中できる

④ アジャイル開発がさらに加速

4つ目は、開発プロセス自体の変化です。生成AIにより、アジャイル開発のサイクルがさらに速く回せるようになりました。

アジャイル開発とは、短いサイクルで開発・リリース・フィードバック収集を繰り返す開発手法です。「完璧なものを一度に作る」のではなく、「まず出して、改善を繰り返す」アプローチです。

AIの力を借りれば、プロトタイプを素早く作り、ユーザーに見せてフィードバックをもらい、それを基に改善する——このサイクルを、従来の何倍もの速さで回せます。これにより、顧客の声を聞きながら、試行錯誤してUXを磨き上げることが現実的に可能になりました。

⑤ BtoBでも「UXの基準」が上がっている

これらの変化の結果、アプリケーションに求められるUXの水準が上がっているのです。

消費者向け(BtoC)のアプリでは、以前からUXが重視されてきました。直感的で、気持ちよく使える。そうでなければ、ユーザーは離れていきます。

そして今、この「BtoCで当たり前のUX水準」が、BtoBの世界にも求められるようになっているのです。

なぜか?それは、BtoBのシステムを使う「人」も、普段はスマートフォンで洗練されたアプリを使っているからです。プライベートでは快適なUXに慣れている人が、仕事では使いにくいシステムを我慢して使っている。この「ギャップ」に対する不満が、どんどん高まっているのです。

4. UXをどのように設計すればよいか

では、具体的にUXをどのように設計すればよいのでしょうか。ここでは、実践的な3つのアプローチを紹介します。

① カスタマージャーニーで「体験の流れ」を可視化する

UX設計の第一歩は、カスタマージャーニーを作ることです。

カスタマージャーニーとは、ユーザーが製品やサービスを認知してから、利用し、継続(または離脱)するまでの「旅」を可視化したものです。具体的には、以下のような項目を時系列で整理します。

  • フェーズ:認知 → 検討 → 導入 → 利用 → 継続/離脱
  • 行動:各フェーズでユーザーが何をするか
  • 思考:何を考えているか
  • 感情:どう感じているか(ポジティブ/ネガティブ)
  • タッチポイント:どこで製品と接触するか
  • 課題:どこに不満やストレスがあるか

これを図表にまとめると、「どこでユーザーがつまずいているか」「どこに改善余地があるか」が一目で分かります。

コツは、自分たちの視点ではなく、ユーザーの視点で書くことです。「私たちはこう使ってほしい」ではなく、「ユーザーは実際にどう感じているか」を正直に書く。そうでなければ、本当の課題は見えてきません。

② AS-IS / TO-BEで「ギャップ」を明確にする

カスタマージャーニーを作ったら、次はAS-IS(現状)とTO-BE(理想)の整理です。

  • AS-IS:今、ユーザーはどんな体験をしているか
  • TO-BE:理想的には、どんな体験を提供したいか

この2つを並べることで、「何を変えるべきか」が明確になります。例えば、業務システムのログイン体験を考えてみましょう。

AS-IS(現状)

  • 毎朝、ID・パスワードを手入力
  • パスワードを忘れると、IT部門に問い合わせが必要
  • 問い合わせから再設定まで半日かかる

TO-BE(理想)

  • シングルサインオンで自動ログイン
  • パスワードを忘れても、自分で即座に再設定可能
  • ログイン作業を意識しない

この「ギャップ」が、改善すべきポイントです。

ポイントは、TO-BEを「機能」ではなく「体験」で書くことです。「シングルサインオン機能を実装する」ではなく、「ログイン作業を意識しない」と書く。そうすることで、手段に囚われず、本質的な体験改善を考えられます。

③ ユーザーフィードバック → バックログへの実装検討

UX設計は、一度作って終わりではありません。ユーザーからのフィードバックを継続的に収集し、改善を続けることが重要です。具体的なプロセスは以下の通りです。

ステップ1:フィードバックを収集する … アンケート、ユーザーインタビュー、サポート問い合わせの分析、利用データの分析(どこで離脱しているか など)

ステップ2:フィードバックを整理する … 機能/使いやすさ/パフォーマンス/その他、といったカテゴリごとに整理する

ステップ3:バックログに追加する … 整理したフィードバックを開発チームのバックログ(実装待ちリスト)に追加する。このとき「インパクト(改善効果)」と「工数(実装コスト)」の2軸で優先順位をつけると、効率的に改善を進められる

ステップ4:実装して検証する … 実装したら再度フィードバックをもらい、効果を検証する。期待通りの改善が得られたか?新たな課題は生まれていないか?

利用データやフィードバックを分析し、優先順位をつけて継続的にUXを改善する利用データやフィードバックを分析し、優先順位をつけて継続的にUXを改善する

このサイクルを継続的に回すことで、UXは少しずつ、着実に向上していきます。

5. まとめ

本記事では、AI時代にUXが重要になる理由と、その設計方法についてお話ししました。ポイントをおさらいします。

UXとは

  • 機能ではなく「体験全体」を指す
  • UIは「見た目」、UXは「体験」
  • BtoBでは長く軽視されてきたが、今変わりつつある

なぜ今UXが重要か

  • 機能では差別化しにくい時代:AIで簡単に実装できるため、体験価値で勝負する時代に
  • 仮説が立てやすくなった:AIで体験価値の仮説を素早く量産できる
  • 開発リソースの解放:コーディング時間短縮で、価値設計に時間を使える
  • アジャイル開発の加速:試行錯誤のサイクルが速く回せる
  • BtoBでも水準が上がっている:BtoCで慣れたUXが、BtoBでも求められる

UXの設計方法

  • カスタマージャーニー:体験の流れを可視化する
  • AS-IS / TO-BE:現状と理想のギャップを明確にする
  • フィードバックサイクル:ユーザーの声を聞き、継続的に改善する

AI時代の勝負は、「何ができるか」から「どんな体験を提供できるか」に移っています。

機能はコモディティ化する。しかし、優れた体験は簡単には真似できない。

「うちのシステムは機能は揃っているのに、なんか使いにくい」——そう感じているなら、今こそUXに向き合うタイミングかもしれません。

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